青空番長

こちらは声劇団体「Anthurium」に提供した台本となっております。

2017秋M3にて無料頒布をしたボイスドラマCDに収録。


配役 ♂2♀2

所要時間 ~10分

登場人物
香月雅(こうづきみやび) ♀
 番長と呼ばれている。あまり物事に興味がない。喧嘩が好き。
広瀬志野(ひろせしの) ♂
 明るくて楽観的。雅が大事。
三ツ石ゆかり(みついしゆかり) ♀
 基本的には大人しい。基本的には。
林久充(はやしひさみつ) ♂
 いじめっ子だったが、とある喜びに目覚める。

あらすじ
番長と呼ばれ恐れられている雅。
ゆかりが久充に絡まれている場面に遭遇し、声を掛ける。


役表

雅:
志野:
ゆかり:
久充:



【朝・学校】

志野 「じゃあな雅、放課後になったら起こして」

雅 「どこ?」

志野 「屋上」

雅 「はぁ……。何しに学校来たの」

志野 「そんなこと言うなよ。俺がいないと寂しいだろ?」

雅 「いてもいなくても別にいい」

志野 「何それひでぇ! 雅はどうすんの?」

雅 「中庭」

志野 「お前もサボりじゃねぇか。ほんとあそこ好きだよな」

雅 「日向ぼっこに最適」

志野 「ふっ、そうかよ。じゃあまた後でな」

雅 「うん」



【朝・学校・中庭】

久充 「ちゃんと持ってきたのか? あぁ?」

ゆかり 「は、はい。これ、です」

久充 「出すのおせぇんだよ。これで全部か?」

ゆかり 「そのはずです……」

久充 「俺が進級できなかったらお前の責任だからな」

ゆかり 「はい……」

雅 「何してるの」

久充 「あぁ? ……うわ、香月雅」

雅 「私のこと知ってるんだ」

久充 「この高校の番長って言われてんだからな。誰だって知ってるだろ」

雅 「ふーん。私はあんたのこと知らないけどね」

久充 「林久充だ」

雅 「別に聞いてない」

久充 「ちっ、つーか番長サマが何しに来たんだよ」

雅 「悪い奴見つけたから、やっつけようかなって」

久充 「あぁ? なんだよ、殴る気か? そんなことしたら停学になるんじゃねぇの?」

雅 「大丈夫。タダで停学になるつもりはないから」

久充 「だ、大丈夫じゃねぇだろそれ。じゃ、じゃあ、俺はそろそろ行くわ。じゃあな」

雅 「……逃げられた」

ゆかり 「あ、あの、香月さん」

雅 「ん?」

ゆかり 「助けてくれて、ありがとうございました……」

雅 「別に。寝る場所を取られたくなかっただけ」

ゆかり 「ここで寝るんですか?」

雅 「うん、気持ちいいよ。あんた、名前は?」

ゆかり 「三ツ石ゆかりです」

雅 「ふーん。さっき何してたの?」

ゆかり 「あ……林くんの課題を、渡してて」

雅 「課題?」

ゆかり 「は、はい。いつも代わりにやってるんです」

雅 「なんで?」

ゆかり 「えっと……実は、前に林くんに酷いことをしてしまって……それ以来、言うことを聞いてるんです」

雅 「酷いこと?」

ゆかり 「掃除の時間にバケツを持って階段を下りていたら、うっかりバケツの水を零してしまったんです……ばっしゃーん、と林くんの上に」

雅 「思ってたより酷かった」

ゆかり 「うっ……だ、だから、お詫びに言うことを聞くことになったんです」

雅 「それって、いつ?」

ゆかり 「水を零したことですか? 一年前です」

雅 「結構前だね」

ゆかり 「はい……。でも断ろうとすると、家族を傷つけたり、学校で酷い噂を流すと言われていて……」

雅 「それでずっと言うことを聞いてんだ」

ゆかり 「はい……」

雅 「ふーん。ゆかり」

ゆかり 「は、はい」

雅 「一緒に寝る?」

ゆかり 「え、いえ、あの、授業があるので、すみません……」

雅 「アイスは好き?」

ゆかり 「え? アイス?」

雅 「うん。駅前に、美味しいお店があるの」

ゆかり 「そう、ですか」

雅 「放課後、食べに行こ」

ゆかり 「いいんですか……?」

雅 「うん。ゆかりと一緒に食べたい」

ゆかり 「は、はい! 私も食べたいです!」

雅 「約束ね」

ゆかり 「はい!」



【夕方・学校】

志野 「んぁ……雅?」

雅 「放課後」

志野 「もう? 早いなぁ」

雅 「帰るよ」

志野 「おう。……で、誰? その子」

雅 「ゆかり」

志野 「誰だよ」

ゆかり 「す、すみません。三ツ石ゆかりといいます!」

志野 「いや、だから、名前じゃなくてさ」

雅 「朝、中庭にいた」

志野 「説明が簡潔過ぎてわかんねぇよ」

ゆかり 「えっと、絡まれているところを助けてもらったんです」

志野 「へぇー? やるじゃん、雅」

雅 「でしょ」

志野 「珍しいな、雅が人に興味持つの」

雅 「別に珍しくないし」

志野 「いーや、珍しいね。研究材料にされるレベル」

雅 「人を珍獣みたいに言わないで」

志野 「どっちかっつーと猛獣。いてっ……蹴るなよ」

雅 「志野、アイス奢って」

志野 「なんでだよ!」


ゆかり 「あの、どうして助けてくれたんですか?」

雅 「別に。なんとなく」

ゆかり 「なんとなく……?」

志野 「こいつ、気まぐれだからさ。よかったな、ゆかりちゃん」

ゆかり 「はいっ! 本当に、ありがとうございました」

雅 「ゆかり」

ゆかり 「はい、なんでしょうか」

雅 「あいつと、ちゃんとけりをつけよう」

ゆかり 「え?」

雅 「このままじゃ、いけない」

ゆかり 「そ、それはわかってます……けど」

雅 「大丈夫。私がいる」

志野 「そうそう。大丈夫だって。暴力沙汰になったら間違いなく雅が勝つから!」

ゆかり 「暴力沙汰になってる時点で手遅れな気がします……」

雅 「思ってることは、全部言った方がいい。我慢はいけない」

ゆかり 「そうですよね……」

雅 「できる?」

ゆかり 「は、はい! 私、言います! 思ってること、全部!」



【昼・学校】

久充 「おい三ツ石、今日の飯は……」

ゆかり 「きょ、今日は、その」

雅 「話があるの」

久充 「……また香月かよ」

雅 「森、だっけ」

久充 「林だよ!」

雅 「なんだっていいけど」

久充 「よくねぇよ。何の用だ」

雅 「話があるのは私じゃない」

ゆかり 「あの、その、林くん……」

久充 「あぁ? なんだよ」

ゆかり 「一年前、バケツの水を零しちゃってごめんなさい」

久充 「何言ってんだよ。そんなの俺が許すわけ……」

ゆかり 「でも、私はもう、林くんの言う事は聞けません!」

久充 「おいてめぇ、調子こいてんじゃねぇぞ」

雅 「ごほん」

久充 「……主張くらいは聞いてやってもいい」

ゆかり 「あれから一年間、林くんは私に色々命令してきました。でも……お弁当を作ると必ず野菜は食べられないと文句を言い、課題を代わりにやってももっと字を俺に似せろと言ってきたり、委員会や掃除も、代わりにやるたび文句を言われ続けてきました」

久充 「あぁ?」

ゆかり 「……いい加減にしろって言ってるの。やり方がせこいし、いちいち文句言うなら自分でやって。こっちはあんたみたいな何もできないくそ餓鬼なんかに構ってるほど暇じゃないの。野菜も食べられないお子様クズ野郎が調子乗んな!」

久充 「え……」

雅 「……ゆかり、そこまで言わなくても」

久充 「……な、なんだよ……お前ずっとそう思ってたのかよ」

ゆかり 「いちいち偉そうに……そうやってお前って呼ばれるのも不愉快」

久充 「……わ、悪かったな。もうしねぇよ」

ゆかり 「え?」

久充 「じゃ、じゃあな」

雅 「……呆気ないね」

ゆかり 「え、えっと、どうしてでしょう?」

志野 「雅がいたからじゃね?」

雅 「志野」

志野 「ずっと見てた」

雅 「ストーカー」

志野 「ストーカーじゃないもーん」

ゆかり 「どういうことですか……?」

志野 「雅が番長って呼ばれてるだけあるってことだよ。それにしても、ゆかりちゃんすごいねー」

ゆかり 「はい?」

志野 「あんなに強気な発言ができるとは思わなかったな」

雅 「うん。びっくりした」

ゆかり 「あ、あれは……つい」

志野 「女ってこえー」

雅 「ゆかり」

ゆかり 「はい?」

雅 「よかったね」

ゆかり 「はい……香月さんのおかげです!」



【翌朝・学校】

志野 「よかったなぁ、解決して」

雅 「何もしてない」

志野 「不満そうに言うなよ。暴力はよくないんだからな」

雅 「あ、ゆかり」

志野 「ほんとだ。ん? あれ、林も一緒じゃね?」

久充 「み、三ツ石!」

ゆかり 「な、なんですか」

久充 「もっと、もっと罵ってくれ!」

ゆかり 「い、嫌ですよ! しつこいです!」

久充 「ちょっとだけでいいから!」

ゆかり 「嫌ですって……!」

志野 「えっと、彼、何かに目覚めてしまっていますが」

雅 「はぁ……志野、放課後起こして」

志野 「中庭?」

雅 「うん」

志野 「あれ、助けなくていいの?」

雅 「ゆかりなら大丈夫」

ゆかり 「いい加減にしろ、この変態野郎!」

雅 「ほら」

志野 「あぁ……」





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