双子星ティータイム
こちらは声劇団体「Anthurium」に提供した台本となっております。
ボイスドラマ:双子星ティータイム
配役 ♂2♀2
所要時間 ~10分
登場人物
カイ ♂
勇者。荒っぽい性格。魔王の双子の兄。
リク ♂
魔王。優しい性格。勇者の双子の弟。
ミーシャ ♀
魔法使い。カイを導くしっかり者。
シンシア ♀
魔王の使い。リクに惚れている。
あらすじ
魔王を倒すため城へ行く勇者と魔法使い。
しかし遭遇した魔王と勇者は、なんと顔がそっくりだった。
幼き頃一緒に遊んでいた双子の兄弟だと知った二人。
二人はそれぞれの想いを胸に、戦うことを決意した。
役表
カイ:
リク:
ミーシャ:
シンシア:
【魔王城前】
カイ 「魔法使いの少女と旅をする勇者、俺。数々の魔物と戦ってきた俺だったが、ついにこの時が……魔王を倒す時が、やってきた。雨に降られたり、野宿したり、ここまで色々なことが」
ミーシャ「モノローグとかいいから、早く行きましょう。さっさと倒して、さっさと帰るわよ」
カイ 「ちょっとくらい感傷に浸らせろよ! ミーシャのケチ!」
ミーシャ「誰がケチよ。大体、感傷に浸るほど大変な旅じゃなかったでしょ? 魔物も何故かほとんど襲ってこなかったし」
カイ 「まぁな。あいつら、人間を襲う気なんてねぇんじゃねぇの?」
ミーシャ「どっちにしろ、それも今日で終わりよ」
カイ 「……そうだな。んじゃ、行くか」
【魔王城】
扉を開く音。
カイ 「来たぞ、魔王! お前はここで終わり……だ……?」
ミーシャ「カイ? どうしたの……って、あれが……魔王?」
カイ 「お前が……魔王、なのか?」
リク 「ああ。君は、勇者?」
シンシア「ま、魔王様と、同じ顔……。そんな、勇者ってもしかして」
ミーシャ「……双子?」
カイ 「な、なな、なんで」
ミーシャ「カイ、落ち着いて」
シンシア「ま、まま、魔王様、どうしましょう」
リク 「シンシア、君も落ち着いて」
カイ 「撤退だ!」
ミーシャ「はぁ?」
立ち去るカイ。
ミーシャ「え、ちょっと、本気? カイ! カイってば!」
追いかけるミーシャ。
シンシア「魔王様……」
リク 「大丈夫だよ、シンシア。深呼吸して」
シンシア「わ、私は落ち着いています。でもあの勇者、どうして魔王様と同じ顔を?」
リク 「まぁ、普通に考えて僕の双子の兄、かな」
シンシア「どうしてお兄さんが勇者なんですか!」
リク 「それは僕にもわからないよ。僕たちは幼い頃に離れ離れになってしまったからね、それぞれの人生が全く違っていても驚かないよ」
シンシア「だからって……魔王と勇者はないですよ……」
リク 「はは、本当にね」
シンシア「笑いごとじゃないですよ!」
リク 「驚きはしたけど、僕のすることに変わりはないよ。僕を育ててくれた魔物たちは、僕が守る」
シンシア「魔王様……でも、お兄さんなんでしょう?」
リク 「関係ないよ。魔物たちだって、僕の大事な家族なんだ。その家族や君のために、僕は戦う」
シンシア「魔王様……(うっとりしたように)」
【魔王城前】
ミーシャ「ちょっと、カイ! おい、こら! 勇者!」
カイ 「いやいやいや、無理だろ! あれ俺の弟だぞ!」
ミーシャ「どういうことよ?」
カイ 「ちいせぇ時に、あいつと離れたんだよ。親が別れて、俺が母親と残って、あいつは父親と街を出たんだ」
ミーシャ「それで、どうして魔王になってるのよ」
カイ 「知らねぇよこっちが聞きてぇよ!」
ミーシャ「はぁ、魔物が全然襲って来ないのは魔王と顔が同じだからだったのね」
カイ 「そうみたいだな。……でも、俺も偶然街を襲ってきた魔物を倒して流されるままに勇者にされたんだし、あいつもきっとそんな感じだろ」
ミーシャ「あんたは、嫌々勇者をやってるってこと?」
カイ 「そんなことは言ってねぇだろ! ただ、弟と戦わねぇといけねぇとか、それはさすがに」
ミーシャ「甘えたこと言ってんじゃないわよ! あんたがやらないで、誰が世界の平和を守るっていうのよ!」
カイ 「でも弟だぞ! 一緒に生まれて、一緒に遊んた双子の弟だぞ!」
ミーシャ「だから何よ! あんたは勇者なのよ!? 流されるままに嫌々やってるとしても、あんたは世界の平和を守る義務があるの!」
カイ 「だから嫌々やってるなんて言ってねぇだろ!」
ミーシャ「だったら戦いなさいよ! 自分で決めた道なら尚更、簡単にやめるなんて言わないで!」
カイ 「わ、わかってるよ! わかってんだけど」
ミーシャ「まだ何か文句が?」
カイ 「いいえ、何も、ありません」
ミーシャ「だったら早く戻るわよ」
カイ 「はい……」
再び魔王城へ向かう。
【魔王城】
扉の開く音。
カイ 「来たぞ、魔王! お前はここで終わりだ!」
ミーシャ「その台詞はどうしても言いたかったのね」
リク 「やあ、待っていたよ。兄さん」
カイ 「ぐっ」
ミーシャ「兄さんって呼ばれてダメージ受けてる場合じゃないわよ。ほらしっかりして」
カイ 「リク……」
リク 「久しぶりだね、兄さん。まさか、勇者になってるとは思っていなかったな」
カイ 「それはこっちの台詞だ。お前、なんで魔王なんかになってんだよ」
リク 「僕には、魔物を守る理由があるんだ」
カイ 「理由って」
リク 「街を出てすぐ、父さんが盗賊に殺されたんだ。それ以来、僕は森の魔物たちに育てられてきたんだ」
カイ 「そう、だったのか……」
リク 「兄さんみたいに、嫌々やってるわけじゃないよ」
カイ 「俺だって嫌々じゃねぇって! てか何で知ってんだよ!」
シンシア「城の前でごちゃごちゃ言っているのが聞こえただけです。魔王様は何も悪くありません」
カイ 「お前は誰だよ!」
シンシア「魔王様と似ても似つかないくらい失礼な方ですね……。私は魔王様に生涯仕える者です」
リク 「はは、生涯仕えてくれるの?」
シンシア「も、もちろんです。魔王様……(うっとりしながら)」
カイ 「うわなんだよあれずりぃ! 俺らもやるぞミーシャ!」
ミーシャ「嫌よ」
カイ 「即答かよ! くそ!」
リク 「それで、どうするの?」
カイ 「何が!」
リク 「僕を倒しに来たんでしょう?」
カイ 「……いや、戦わないことにした」
リク 「え?」
シンシア「は?」
ミーシャ「はぁ? 何言ってんのよ、頭湧いてんじゃないの」
ミーシャがカイを小突く。
カイ 「痛い、痛いミーシャ! 違うんだよ、聞いてくれ!」
ミーシャ「何よ」
カイ 「リクが戦うのは、魔物を守る理由があるからなんだろ?」
リク 「ああ、そうだよ」
カイ 「それで、俺にも勇者として世界を守る理由がある」
ミーシャ「何が言いたいの?」
カイ 「戦う必要なんてないだろ」
シンシア「どういうことですか……?」
リク 「魔物と人を共存させるってこと?」
カイ 「そう! それだ! さすが俺の弟だな!」
リク 「甘いよ兄さん。それが今まで上手くいかなかったから、こうして僕たちが魔王と勇者として再会してるんじゃないか」
カイ 「俺ら二人が協力すればいいんだよ。俺とお前に、勇者と魔王に、不可能なんてねぇだろ?」
ミーシャ「またそんな無責任なことを言う」
シンシア「魔物と人が共存だなんて、上手くいくはずありません……」
カイ 「何言ってんだよ。リクだって人間だろ」
ミーシャ「あ、そっか」
シンシア「そういえばそうでした」
リク 「はは、兄さんは面白いなぁ」
カイ 「本当のことだろ? 俺とお前が戦う理由なんて、最初からねぇんだよ」
リク 「そうだね。お茶でも淹れるよ。作戦会議しよう」
カイ 「おう! とりあえずあれかな、国王に一緒に会いに行こうぜ」
リク 「うん。その前に、兄さんも魔物たちに会っていってよ」
カイ 「もう何度も会ってるけどな。あいつら、全然襲ってきてくれなかったんだぜ?」
リク 「はは、魔王の僕と同じ顔だもんね」
シンシア「え、えっと、その、お茶、淹れてきます」
ミーシャ「はぁ……こんな展開、予想外にも程があるわ。ま、仕方ないわね。あの勇者だもの」
カイ 「何してんだよミーシャ。早く行くぞ」
ミーシャ「はいはい。勇者様の仰せのとおりに」
カイ 「勇者様ってなんだよ急に。気持ち悪いな」
カイを小突くミーシャ。
ミーシャ「殴るわよ」
カイ 「殴った後に言うな!」